ゆるふわコンサルタントの日常

設計エンジニアから業務コンサルタントに転職、その経験談や仕事術を綴ります。

【IoT】第4次産業革命と日本の課題

業務コンサルタントのT(@T14764)です。

今回は製造業界の最新動向について紹介、考察します。読者は、製造業に関わられている方や、世の中の最新動向に興味がある方を想定しています。

製造業界ではここ数年、「IoT」や「デジタルトランスフォーメーション」というバズワードとともに「インダストリー4.0」という概念が徐々に流行ってきています。どこかで一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか?

「インダストリー4.0」とは、日本語でいうと「第4次産業革命」と訳します。この「インダストリー4.0」について解説された本「小説 第4次産業革命 日本の製造業を救え!」(2019/4/18発売、藤野直明・梶野真弘著)を引き合いに出しながら、この概念や日本の製造業の課題について考えます。

(最近この本を読んだので、このブログが自身の考えを深めるきっかけになればというのもあります)

 

 

 

目次

 

 

第4次産業革命とは

定義

まずは、インダストリー4.0=第4次産業革命とは何ぞや、ですが、本書では以下と定義しています。

 サイバー・フィジカル・システム(CPS)により製造業のサービス化を加速するための産業政策としての国際標準化活動

これは、ドイツで2011年に提唱されたコンセプトです。

インダストリー4.0 - Wikipedia

冒頭に出てくる”サイバー・フィジカル・システム(CPS)”でつまづくと思うのですが、これは「工場設備をネットワークに接続し、製造データを分析できるようにした状態」を意味しています。「IoT」=「モノのインターネット」を製造業に適用し、工場設備にネットワーク機器を接続して製造データをネット上に吸い上げ、それを元に設備の停止や故障を未然に予知して予防したり、製品設計にフィードバックしたりするためのシステムです。

この定義を見て、個人的に「新しくてワクワクするな」と思ったのは、”製造業のサービス化”という言葉です。製造業とは文字通り「ものを製造する業界」ですが、それをサービス化するというのは新しい発想です。製造業のサービス化なので、ものを作ることそのものをお客さんに提供するということです。とても将来性や成長性を感じるコンセプトだと感じました。

”産業政策としての国際標準化活動”というのは、とても大きな話です。一企業や一国の政策では完結せず、国際的に協力しながら活動することを目指しているということです。確かに「産業革命」というくらいですから、世界規模で産業が変わる必要があるでしょう。何を「標準化」するのか、ですが、物を作る手順である「製造工程」や、設備から収集する「データ形式」、「通信方式」などです。これらを国際的に標準化することで初めて、グローバルな”製造業のサービス化”が実現できるということです。

 

 

概要

「インダストリー4.0」について、本書を引用する形でもう少し詳しく紹介します。

 

グローバルなエコシステムを人工的に形成する

これはインダストリー4.0の狙いの一つでもあるのだが、グローバルな産業エコシステムをオープンイノベーションで構築できる仕組みにして、産業の進化をスピードアップさせようということだ。

具体的には、業種の枠を超えて要素技術を活用できるようにすること。

世界中で行き場を失っている巨大なマネー、特にベンチャーキャピタルやファンドなどのリスクマネーを技術開発に取り入れやすい仕組みを構築しようということだ。

日本のほとんどの製造業関係者(以前の僕も含め)で、上記を理解している方は恐らくごく少数だと思います。「そんな意図があったとは全然知らんかった」というのが僕の最初の感想でした。

これは例えば、過去PC業界で起こった変化と同様と考えられます。垂直統合から水平分業型に代わり、CPUはインテル、OSはMicrosoft、ハードウェアはDELLなど、それぞれの要素技術に強みを持つメーカーが、PC業界内で人工的にエコシステムを形成しました。それと同様のことを、製造業全体で起こそうというのが「インダストリー4.0」なのだと理解しています。

 

スマート工場の実現

「インダストリー4.0」の中でも最近話題になっているのが「スマート工場」というコンセプトです。以下、その考え方を抜粋します。

(1)海外に新工場を設立する際 、製品や部品表 、加工工程や設備を既知としてどんなレイアウトで 、どんな設備の製造ラインで 、何秒で製造できるか ?設備投資 、価格 、現場の作業員の数をどう設計できるか ?設計の基礎的な数字や考え方が組織的に整理されているか ?

(2)もし急に来年から月間二万個の部品を供給してほしいと言われたとすると 、ラインの設備設計や設備投資の投資規模などを短期間で見積もりを取れるか ?

(3)実際に完成した工場の運営が当初の設計の目論見と異なっていた場合 、何が設計時の想定と違うのか 、どこを改善すれば工場全体のパフォ ーマンスを向上させることができるのか ?

(4)品質問題が発生したとき 、品質管理プロセスのどこを変えることが適当か 、そのとき 、標準原価はどれだけ増加するか ?

 「Q C D全体のバランスをみて 、こうしたことを可能にするのが製造の統合管理 、またサイバ ー ・フィジカル ・システム ( C P S )の発想だ 。これがスマ ートな工場 、スマ ート ・ファクトリ ーだよ 。」

抜粋が長くなりましたが、要するに「スマート工場」=「変化に対し、生産準備や原価見積、品質改善をすぐに行える工場」ということです。そのための仕組みを構築する上で、設計や製造情報のシステム化が必要になります。

 

まとめ)「インダストリー4.0」とは?

「インダストリー4.0」の概要について、何となく理解いただけたでしょうか。頑張って要約すると、各社の得意な要素技術を持ち寄ってエコシステムを形成した上で、自社工場をスマート工場化することで、グローバルにサービスを提供すること」といった感じでしょうか。

 

 

日本の製造業の課題について考察

ここからは、「インダストリー4.0」を日本に適用する際の課題を考えてみます。

 

生産技術のシステム化

生産技術のシステム化にまず課題があると考えています。その理由ですが、以下2つと考えています。

  1. 暗黙知である生産技術知識(現場のベテランの知識)を形式知化、言語化するのが難しい
  2. 現場のベテランの強みを取り上げるように見えるため、反発される可能性がある

現場のベテランの持つ暗黙知とは例えば、僕の経験していた通信機器でいうと、「製品のここを物理的に少し調整すれば性能が良くなる」みたいな知識のことです。これを言語化するのがなぜ難しいかというと、多分に感覚的なものだからです。つまり、ベテランになぜ良くなるのかと確認したところで、何となくの理由は引き出せますが、それを科学的に検証することができないのです。もしできていれば、既に設計に反映しているはずですから。

また仮に形式知化ができるとしても、やりたくないと反発が起こると思います。なぜなら、ベテランがそれまでの経験で身に付けたノウハウを全て公開することになり、自身の強みが無くなってしまうからです。ベテランが管理職でない限り、そのノウハウが周囲から頼りにされている訳ですから。

ただ実際には、形式知化してもベテランの方の強みが無くなる訳ではなく、品質改善のために製造設備へその知見を継続的に反映したり、後継者育成に活かしたりできるので、誤解である訳ですが。

 

中小企業における改革リソース確保

この小説の主人公は、中小企業の社長です。中小企業ではありますが、「スマート工場」を実現するために、形式知化や品質管理プロセスの見える化、様々な業務システムの導入などを行っていきます。こうして挙げるだけでも分かりますが、これらをやりきろうとすると、とても手間と時間がかかります。

この本はフィクションなので最後まで実行し切っていましたが、そこに至るまでの課題については何も語られていません。

現実では、大半の中小企業は人手不足です。このボリュームの改革を実行するリソースを確保することも大きな課題の1つと考えています。今ある社内リソースだけでは恐らく不可能でしょう。

解決策としては、コンセプトをしっかり理解した上で仮説検証をしっかり行い、お金で時間を買う発想で、外部の専門家を活用して一気にやり切る。そして数年後に効果を出して投資を回収する、という考えで、赤字覚悟の先行投資をするしか無い気がします。そのためにはやはり、コンセプトをしっかりと理解する必要があります。この小説でも、当初社長がコンセプトや重要性を理解していなかったため、なぜ今やる必要があるのか認識できていない状態でした。理想状態が分からないから、危機感に気付かなかった訳です。

この例に限らず、自身の課題に気付けるというのはすごく大事ですが、難しいことです。

 

 

疑問点

ここからは、課題というよりは、コンセプトについて個人的に疑問を感じた点についてです。

 

過去の産業革命に匹敵するのか?

「インダストリー4.0」=「第4次産業革命」ですが、僕が最初にこの本を読んで持った感想は、「なかなかすごいけど、コンセプト分かりにくいな」でした。

過去の産業革命を考えてみると、蒸気機関による工業化の「第1次産業革命」、電力による工業化の「第2次産業革命」、コンピューターによる自動化の「第3産業革命」と、どれもコンセプトが明快で覚えやすいです。ところが「第4次産業革命」はどうでしょうか。冒頭でご紹介したコンセプト、覚えていますか?もう忘れてません笑?

前述の通り、第4次産業革命を実現するには、まずはコンセプトを理解することからです。ですがそもそものコンセプトが分かりづらいので、本当に世界中に浸透するのか、疑問が残ります。(ドイツさん、すみません)

また、範囲が製造業に限られていることも気になります。産業革命と言うからには、あらゆる産業ががらっと変わるはずです。でも実際にはそうではないです。じゃあなぜ提唱者のドイツはそう表現するのでしょうか?何かそう言いたい思惑があるのでしょうか。

これはジャストアイデアですが、ドイツは製造業が国の産業の中心です。ということは、製造業全体の市場規模が大きくなると、その分ドイツにとっても美味しい訳です。つまり、第4次産業革命という製造業限定のコンセプトを全世界に発信することで、世界中の製造業市場を大きくし、自国の利益を増やしたいのではないか、というのが僕の乱暴な仮説です笑。

あと実は同様のコンセプトをアメリカや日本も掲げています。(アメリカは製造業に閉じていなかったりしますが。)そんな状況の中でドイツがこのコンセプトを提唱し各国に協力を求めているということは、ドイツが世界経済の中心になりたいのではないか、というのがもう一つの仮説です。


OEM(製造外注)との違いは?

冒頭に紹介した定義の中で、「インダストリー4.0」は「製造業のサービス化」を目指した活動、と書きました。「製造業のサービス化」とは、ものを作ること自体をサービスとして提供する、ということです。

ですが、ふと考えると、これまでのOEM(製造外注)と何が違うんでしょうか?OEMは正に、ものを作ること自体をサービスとして提供するビジネスです。ただ単に僕が「インダストリー4.0」のいう「製造業のサービス化」を誤解しているだけなのでしょうか。

本の中ではそこについては触れられていませんでした。違いがあるとすると、「サービスの柔軟性、スピード」かなと思います。どういうことかと言うと、「インダストリー4.0」が目指す世界は、例えば需要が急増して工場の供給力を上回った場合、その工場の製造ラインをそのまま海外の工場にコピペし、一時的なラインとして即増設できることです。これは、生産技術をシステム化しているため実現できることです。この柔軟性、スピード感が違う、ということであれば、確かにそうです。

もしそうだとすると、これもまた分かりやすさポイントが-1されますね。(ドイツさん、本当にすみません。)

 

 

 

以上、インダストリー4.0の概要と、それについて製造業界にいる僕が思うことをつらつらと書いてみました。長くなりました。そして少し硬めの内容でしたね。恐縮です。

 

ちなみに、ご紹介した本はとても分かりやすくまとめられていて、また小説調で読みやすいのでオススメです。著者は僕と同様、製造業のコンサルをずっとやられている方ですので、業界の知見も豊富で技術にも精通されています。(僕は著者とは直接関係無いです。念のため。)

 

次回はもう少しカジュアルに、コンサルに寄せた内容を書くつもりですので、引き続きよろしくお願いします。

では、また次回。